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フジのプロモーション動画に想う

2月5日、富士フイルムが新型のハイエンドコンパクトデジタルカメラ X100Vを正式発表し、プロモーションを開始した。


が、わずか数時間後にその動画は公開停止となり

その後謝罪文が掲載されるに至った。


その事から、撮影とは、写真とは

いちカメラマンとして、私なりに考えたことを綴る。



そもそもX100シリーズとはフジの人気高級コンデジシリーズである。

コンデジとはいえ、センサーはAPS-C、OVFとEVFが切り替えられるファインダーなど

随所にこだわりがみられ、非常に個性的な魅力に富んでいる。


無印の後、S→T→Fと来て、次に出るのがVである。

それまではSecond Third....と来たがFが2回続いてしまうのもなんなので5代目にして

急にVになったわけだが、そんなことはどうでもいい。


ちなみに私はX100Fを使用していた時期があり、非常に気に入っていたが

どうしても気になる部分があって手放してしまった。

そんなわけで実はX100Vにも大いに期待していたし、正直に言えば

発表直後は、予約すらする気でいた。




在りし日の我がX100F、香港に持って行ったりもした。




時代はミラーレス一眼全盛期で、レンズ交換式カメラ自体の選択肢も多く

また趣向を凝らした各レンズを使い分け、その時々にベストな機材を選んで撮る

それはもちろん楽しいのだが、このX100シリーズはレンズ固定式のコンデジである。


しかも搭載しているレンズはズームのできない単焦点で

基本的には常に同じ画角での撮影となる。


だがそれ故、ポケットに入る(というにはやや大型だが)この手の小型カメラは

取り出して即撮る、いわゆるスナップ撮影には非常に向いている。


ズームや画角を気にするのではなく、目の前の風景をいつもの画角で切り取る

作りこみ、練りこんだ写真というよりは、生の瞬間を収める

普段は一眼レフばかり使っている私でも、この楽しさ心地よさは非常によくわかるし

事実X100Fを使っていたころは、何気ない街の風景を瞬間で切り取ることの楽しさを

存分に体験させてもらった。


Z6に14-30や24-70を付けていても、それなりのサイズになってしまい

そんなに瞬間的に取り出して即撮影、とはいかない。

やはりコンデジにはコンデジの、そしてスナップシューターとしての良さがある。



X100Vはきっとその魅力をさらに洗練した非常に楽しい機種になっていることだろう。





しかし、そのプロモーションは、件の動画によって大きく失敗してしまった。


既にさんざん語られていることなのでざっくりと書けば

X100Vをある写真家さんが使っている様子に同行した動画である。

(インタビューや後半には普通のポートレートもあったが)


その写真家は街中でのスナップ撮影の際に

すれ違いざまにいきなり人を撮ったり、前からくる人にカメラを向け

避けようとした相手の進路をふさぐ、あるいは追いかけるようにしながら撮影をしていた。




これが「明らかに嫌がっている人にカメラを向けている」とか

「肖像権の侵害だ」という意見が多く上がり「盗撮」という言葉も使われた。


動画自体は本来のアップ先は削除し、それが別場所に再アップされているらしいが

それはそれで著作権侵害に当たると思われるので、そちらを紹介したり

観ることを推奨するつもりは、私はない。


フジのサイトを見れば謝罪文は掲載されているが

それも、あえてここでリンクすを貼る必要はないだろう。



私自身、カメラを向けられるのは好きではないので

批判的な意見の多くに賛同するが、しかし話があちこちに広がりすぎて

この件は論点がブレてしまっている気もする。



そこで改めて整理して考えていきたい。



例えば観光地で有名なオブジェや建築物を撮影したとしよう。

多くの人が行う行為である。

人が大勢いたからたくさんの人が写りこんでしまったが、これは問題視されるだろうか?


恐らくされないであろう。


なぜならこの撮影の主目的が「観光地のオブジェや建築物」であって

たまたま他の人も写り込んだに過ぎないからだ。



しかし、ここで観光地に来ている人の中で、気になる人物がいたから狙って撮った

だとどうだろうか?

服装が派手だったとか、すごく外見に特徴があったとか理由はわからないが

人を狙って撮った、になるとどうも少し問題がある気がする。


これは今回問題になった街中のスナップもに当てはめてみてもよい。

渋谷のスクランブル交差点の雰囲気を写した、なんていかにもスナップ写真でありそうだが

そこを行き交う「人」を写したのか、それはあくまで「風景」の一部なのか。



さらにいえば、以前事件にもなったが、有名観光地で

女性のスカートの中を撮って捕まった人がいたが

これだともう完全にアウト、というのがおそらく殆どすべての人の共通認識だろう。




だが、違いはどこにあるのだろう。


写真の画角に占める、人物の専有面積がX%を越えたらだめ、みたいなルールがあるわけではない。

しかし、街の風景を撮っている中に人が写り込んだものと

待ちにたたずむ1人の人に主眼を絞って撮影したものは少し違う。

その人が後ろ姿なのと、顔が認識できるのでも違うし

撮られたことに気づいているのといないのと、気づいたうえで拒否したのか、気にしなかったのかでも大きく違うだろう。



なんとなく不快だ、自分がやられたらいやだ、と感じること自体は大いにわかるが

自分が嫌だからそんなことするな、では誰かの価値観がルールになってしまう。


ルール、そしてもっといえば「法」に則っているかどうかは非常に大切なことなのだ。


今回の動画では、撮られている人の明らかに嫌がってる風な様子が見受けられたのが

そしてそんな動画を撮影、作成し、プロモーション動画としてアップしたことが

何よりの問題だったのだろう。





実のところ「盗撮」という犯罪はない。というかそれを規定した法律はない。


意外に思われるかもしれない。

スカートの中撮って捕まった人がいるんでしょ?それが盗撮でしょ?

と思われるかもしれない。


それは多くの場合「迷惑防止条例違反」だ。

条例なので、都道府県ごとに規定が異なる(そこもややこしさの一因だ)が

往々にして「 正当な理由なく人を著しく羞恥させ又は人に不安を覚えさせる 」行為を

行ったかどうか、というのが争点になってくる。


本来隠されている(普通にしていれば見えない)ものを撮影したのであれば

(スカートの中に携帯電話を差し入れたり更衣室に隠しカメラを仕掛けるなど)

明らかにこれは「正当な理由なく人を羞恥」させ「不安を覚え」させているのだから

法的にアウトなわけだ。


そこで話を戻してみよう。



今回問題になった動画では

明らかに嫌がっている様子の人にカメラを向けているシーンもあった。


もちろん、その後で「突然失礼しました、実はスナップ撮影をしていまして、これを使用しても良いですか?」などと説明・交渉が行われた可能性はゼロではないので、ここで相手の人は絶対嫌がっていたし恐怖を覚えていたはずで、その写真と映像を無許可で使用しているとんでもない動画だ!と私が決めることはできない。

ましてや著しく羞恥させたり不安を覚えさせたりした、という認定は私にはできないし

そもそも法の専門家でもなんでもない。


つまり一般に言う「盗撮行為」か、法的に言えば「迷惑防止条例違反」であるか

どうかはあの動画では判断できないし、それは随分と極論だと思う。



動画配信などが増えるにつれて、街角での動画企画を行う人もいるので

(それが良い悪い、好き嫌いという話はここでは無意味だ)

マナーとしてはどうなの、ということはあっても

先に撮影、その後説明、という形式での撮影である可能性は否定できない。


不快な人も多いだろうが、見ず知らずの人にいわゆるドッキリのようなことを仕掛け

その様子を隠し撮りし、後で実はこれドッキリなんです、そこにカメラが、と

種明かしする、なんて海外の動画を見たことがある。



そしてそれが不愉快だったり自分がされたくなくても

その手法でなければ撮れない表情、つまり

先に説明してから撮るのとは明らかに違うシーン、表情が撮れる、というのは事実だろう。


その上で、撮影自体の問題と、アップすることの問題の2重の問題があることも重要で

撮影されたことを憤り、不快に思った人がいたとして

撮影者は謝罪し目の前で消した場合と、内緒でアップしたのとでは全く意味が違う。




この人物が写真家として自分の手法を重視し

トラブル覚悟で撮影し、その後でしっかりと丁寧に説明、ケアをしている

拒否された場合は謝罪し削除している、というのであれば

私とは相いれなかったとしても、これ以上私は何も言う気にはならない。





しかし、今回は「写真家XXの手法動画」ではない。

「新型カメラX100Vのプロモーション動画」である。


多くの場合、カメラのプロモーションでは

プロがその機材を使った感想を述べたり、実際に撮った作例をみせることで

「あなたもこのカメラを買えばこんな写真が撮れますよ」とか

「こういった場面、使い方で活きる機材ですよ」と購買層にアピールするわけだ。




で、今回の動画である。


前述の通り、盗撮というのは法律上の定義ではない、とか

この後できちんとしたケア、同意があったはず、とかの部分とは全く関係なく

「このカメラを購入したらどんなことができるの?どんな場面で使いやすいの?」

という購買層の気持ちへのアピールに、全くなっていない。



「コンパクトだから、さっと取り出してすれ違いざまに人の顔が撮れますよ!」と

フジがアピールしたかったのだとしたら、さすがに企業倫理としておかしくないか?と思ってしまう。

(仮に、旧型に比べてAFが強化されたとか手振れ補正がついた、というアピールだとしても

その例が「すれ違いざまに人を撮る」だと、いくら何でもズレすぎている)



フジがわずか数時間で動画を消してしまったこともさらに拍車をかけていて

あたりまえだがyoutuberや動画配信者が思い付きで企画を立ち上げているのと違って

大企業がこの手のプロモーションを打つにあたっては

相当な時間と段階、そして人の目を経ているはずだ。


企画案から始まり、企画を煮詰めて実際に動画の素材を撮ってきても

没になったものもあれば、どう編集するか、どう見せるか

それが新機種のイメージアップにどう繋がるか、慎重に話し合われたはずである。


私には理解できなくとも、少なくともフジはこの動画を作っている段階では

「X100Vの良いアピールになる」と踏んだからこそ完成し公開されたわけだが

それに対する批判には何も応えず、公開停止して謝罪文の掲載となった。


もはやさっぱりわけがわからない。




さて、ここで自分自身にも当てはめて考えてみるが

原点に戻って、そもそも「カメラで人を撮る」行為自体がどうなのか、という話である。


スナップ写真自体は昔からある手法だし、カメラの醍醐味の1つかもしれない。

特に旅行に小さいカメラ1つ持って行き、屋台をパチリ、市場をパチリ、なんてことはよく見かける風景だし、自分自身でも思い当たることはある。


海外の市場で声をかけてきたお店のおっちゃんを撮る、

撮影しても良いですか?と聞いたり、言葉が通じなければカメラを指さしてOK?だけでも

あるいはカメラを向けようかな、というそぶりを見せて、相手がピースサインをすれば

これは同意が得られたと言ってもいいだろう。


いや、まてよ。

これは観光名所での撮影と同じで「アジア某国の市場の風景」を撮ったにすぎない。

おっちゃんも市場の風景の一部でしかないのだ、だからいちいち同意など必要ない。

という考えもあるかもしれない。



とまあ、色々と考えられるだろう。

前述の通り、画角に占める面積比のような分かりやすい数値で

風景写真か人物写真かが定義されて区分されるわけではない。


この写真全体に対して、この通りすがりの人物の顔は

これだけのサイズしかないんだから、別に写り込んでても良いだろう

といった基準は無い。


明確な答えはないのだ。

(相手が拒否した場合はもちろん尊重すべきだとは思うが)


また、風景であっても、宗教施設や軍事施設であれば撮影不可だったり

いきなり捕まる、なんてこともあるのだから単純な話ではない。





カメラを持つこと、使うことは、楽しく魅力的な行為かもしれないが

そこにはある種の責任が伴うことは忘れてはならない。


ましてや、一昔前なら

撮った写真は、焼いてその実物でしか見られない、という時代ではない。


仮に今回のような、人物に寄ったスナップ写真であっても

写真展でしか他の人が観る機会がない、というものであったならまた反応も違っただろう。



撮って即ネットにアップされ

アップした本人が消した後でも、無断転載が延々とされかねない時代では

撮られる側の意識は当然変わっている。


撮る側の意識も、同様に変化させていかねば

「自分はこの手法で30年撮っている」と言われても、全く通用しないだろう。

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